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なぜ「モテない男」が生まれるのか/進化と遺伝子の恐怖!?

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原始時代より、男児出生率は女児のそれよりも少しだけ高い。



ルイス=ヘンリー=モルガンは『古代社会』の中で、「かつて人類は乱婚制だった」という仮説を示した。
夫婦――すなわち男女が一対一でつがいを作るという制度は文明を通して生まれたのではないか。文明の生まれる以前、まだヒトとサルとの分化が充分に進んでいないような野生の時代には、つがいなどというものは存在しなかったのではないか。これがモルガンの示した仮説だ。
しかしこの仮説は、前述の書籍の発表された当時(十九世紀)の風説に基づいたものであり、民族誌な証拠は存在しない。
なにより現代の生物学によれば、人類が一夫一妻制の哺乳類であることに疑問の余地はない、らしい。





      ◆





動物のつがい行動には、以下の四つのパターンがある。


a・乱婚制。
b・一妻多夫制。
c・一夫多妻制(ハーレム)
d・一夫一妻制(ヒト)


このうちa・乱婚制やb・一妻多夫制をとる生物には、「精子の量がきわめて多い」という特徴がある。
理由は単純で、よりたくさんの精子を生産できた個体が、よりたくさんの子孫を残せるからだ。
たとえば川を遡上するサケの仲間を思い出してほしい。彼らの産卵シーンは壮絶を極める。一匹のメスの周りに十数匹のオスが群がり、彼女の産卵に合わせて一斉に精子を放出する。川面は溢れるほどの精液で白濁する。多数のオスたちの精子が混ざり合う。ぶっちゃけキモい。
このような状況において、あるオスが子孫を残せる可能性は、彼の精子の量に左右される。
いちばん精子の多かったオスが、いちばんたくさんの子孫を残せるはずだ。そして翌年、彼の子孫のオスたちが、ふたたび川を遡上する。精液チャンピオンの子供たちだ。その年の平均的な精子の量は、きっと前年よりも多いだろう。同様に、来年よりも再来年、再来年よりも再々来年の精子量の平均は多くなり、世代を重ねるごとに不可逆的に増えていく。
こうした過程を経て、a・乱婚制やb・一妻多夫制を取る生物たちは極めて多量の精子を作るように進化した。モリアオガエルはb・一妻多夫制をとる動物の代表だが、そのオスは極端に肥大した精巣を持ち、体重の半分以上を精子が占めている。彼らは精子製造マシンとして進化する道を歩んだ。


その一方でc・一夫多妻制の動物では、雌雄の身体的な差異がきわめて大きくなる。
例えばゾウアザラシのオスの体重は、メスの二・五倍以上もある。こうした体格差が生まれるのは、戦いに勝ち抜きハーレムを作ったオスしか子孫を残せないからだ。メスを巡る戦いに勝つため、オスの体はより大きく、より強く進化した。その結果、雌雄のあいだで極端な体格差が生まれた。またグッピーやライオンのような例もある。より派手なひれやたてがみを持つオスのみが子孫を残せるため、オスはどんどん美しく進化していった。その結果、クジャクのオスは極端に装飾的な羽を進化させた。比べてクジャクのメスは、同じ生物とは思えないほど地味だ。


では、ヒトはどうだろうか。


人類の身体的特徴をほかの霊長類と比較すると、体重当たりの精子の量は極めて少ないという。また牙やかぎづめ、筋肉の量などにおける雌雄差も、他の霊長類ほど顕著な違いがみられない。精子の量が少なく、雌雄での体格差が少ない。すなわち、ヒトはa・乱婚制や、b・一妻多夫制、c・一夫多妻制ではないことが示唆される。


そう。ヒトは太古の昔から、d・一夫一妻制の哺乳類として進化したのだ。
男女が一対一でつがうのは、ヒトの本能だと言ってもいい。
でなければ「やきもち」なんて感情は発達しなかったはずだ。


ここで思い出したいのは、男児出生率が、女児のそれよりもつねに少し高いという事実だ。
具体的な割合は、女児100人に対して、男児は100人と少し。その差はわずか数人にすぎない。しかし場合によっては、このわずかな差が極めて重大な意味を持つ。保健体育の教科書的な説明に従えば、出生率に偏りがあるのは男児の生命力のほうが弱いためだそうだ。自然界において男児の死亡する確率のほうが高いので、ちょっと多めに供給する必要があった。


マジかよ、ウソじゃねえの。


石器時代ならいざしらず、現代では医療の発達により、嬰児の死亡率は極端に低下した。したがって百数人の男児は、ほぼすべてが大人まで成長しうる。しかも人類はもともと一夫一妻制だったらしい。そこから導かれる結論はひとつだ。


一対一のつがい行動からあぶれ、パートナーを見つけられない個体が生じる。
すなわち「非モテ」は不可避的な存在なのだ――!






なんでだろう、





視界が滲んで、モニターがうまく見えない。