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デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

『けいおん!』の第二期がはじまる前に(4)

二次創作
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『白鳥たちは見えないところでバタ足をする』

Rootport著



第1回はこちら→http://d.hatena.ne.jp/Rootport/20100325/1269487497

※全5回







     【4】

「あれは八月に入ってからだと思います。お部屋で乾いた洗濯物を畳みながら、みお先輩と長電話していました。夜になっても全然暑さの引かない日でした。クーラーをガンガンかけた部屋でタンクトップのまま、チャーリー・パーカーを聴いていました。大学は夏休みに入ったばかりで、お互いの帰省予定なんかを話しました。もっとも、みお先輩の話の半分くらいはマコトさんのノロケでしたけど。
マコトさんは相模原――神奈川県のご出身だそうです。みお先輩からの又聞きなので詳しいことは知らないんですけれど、母子家庭だったそうです。今はもう、お母さんとはほとんど絶縁状態だそうです。たしか看護師だったかな、お母さんはお忙しい仕事をなさっていて、朝まで帰れないことも度々あったと聞いています。だから、お母さんの手料理を食べたことなんて、ぜんぜん無かったそうです。
「オムライスが食べたい、なんて言うんだよ。あの顔で」みお先輩の声は弾んでいました。「だから作ってあげたの。卵を四個使った、特大のオムライス。ケチャップで《マコト》って書いてあげて、おもちゃの旗を立てて」
マコトさん、食べながら涙してらっしゃったそうです。ごめんな、ありがとうって繰り返しながら。みお先輩の声は明るくて、にこにこしているのが電話越しに伝わってきました。
私が乾いた靴下に手を伸ばした時、電話の向こうでドアの閉まる音がしました。
――きぃ、ばたん。やけにハッキリと聞こえました。
床を踏み鳴らす荒い足音が近づいてきて、みお先輩が小さく「きゃ」って叫ぶのが聞こえました。物と物がぶつかる鈍い音がして、電話の向こうの声が急に遠のきました。私、背筋が冷たくなって、手にしたニーソックスを握りしめてました。
電話越しなので、どんな怒声も遠くから聞こえてきます。それでもはっきりと聞き取れるようなわめき声が聞こえました。
(てめえ、なに楽しそうにくっちゃべってんだよ)
興奮して上擦った声でした。でも、はっきり判ったんです、マコトさんの声だって。
(なめてんだろ、俺のこと)
激しい衝突音がして、電話は突然切れました。私、電話と靴下を握りしめたまま、しばらく動けませんでした。気がつくと、チャーリー・パーカーのCDは終わっていて、私の両手は汗でぬるぬるしていました。
すぐに私、ゆい先輩に電話しました。何かすごく悪いことが起こっていると判ったから。ほとんど迷いはありませんでした。もしも、みお先輩の立場だったら、彼氏とケンカしたことなんて誰にも知られたくないはずです。でもその時は、そんなことを考える余裕がなくなっていました。電話が切れる直前に聞こえた、布袋を叩きつけるような音。あの音が耳から離れなくて、ゆい先輩にすがったんです。秘密を独りで背負うのが怖かったんです。
ゆい先輩、真摯に話を聞いてくれました。もともと大らかな性格をしてらっしゃる方です。ゆったりした声で「あずにゃん、落ち着いて」って言われました。「きっと大丈夫だよ、みおちゃんから直接お話を聞こう?」って。
ゆい先輩の提案で、新宿でご飯することになりました。「クラスの子がとっても美味しいってオススメしてくれた」という、トルコ料理屋さんです。「そこでワインでも飲みながら話そ?マコトさんのことは、その時に聞いてみよう――」
ゆい先輩に相談していなかったら、私、もっと直截的な行動をしていたと思います。例えばマコトさんの部屋に突撃して、真意を問いただすとか。ゆい先輩にワンクッション置いた提案をしていただかなければ、大変なことになっていました。
三人の予定が合わなくて、結局、九月の初めごろに先延ばしになってしまいました。
その日、いちばん最初に待ち合わせ場所へ着いたのは私です。平日の昼間でも、アルタ前の広場は人で溢れかえっていました。丸い花壇の周りは、待ち合わせの人たちで囲まれていました。汚れた御影石にもたれかかる人たち。その中に先輩たちがいないことを確認してから「到着です」とメールしました。東口の地下からは、湧水のように絶えず人間が吐き出されます。喫煙所のニオイが流れてこない場所を探して、お二人を待ちました。
みお先輩、その日はヴィヴィアンの長袖ブラウスを着てらっしゃいました。グレーの、花のコサージュがついたやつです。くっきりした顔立ちのみお先輩によくお似合いでした。考えてみれば、みお先輩、服の趣味がずいぶん変わったと思います。高校生のころは、派手なお洋服はあまり着ない方だったと思うんです。シンプルなアンサンブルとかを好んでらっしゃったと思います。そのかわり音楽機材には糸目をつけずに投資してらっしゃいましたよね。お部屋に遊びにいったとき、コンポもヘッドホンもびっくりするほど良いものを使っていらっしゃいましたから。
服の趣味が変わったのは、きっと、マコトさんとお付き合いしていたからです。好きな人ができると誰だって可愛くなりますけど、それだけじゃなくて、ライブハウスにあるアンプやシールドをある程度は自由に使えたそうです。
最後に来たのはゆい先輩で、サーモンピンクのTシャツにユースド・ジーンズというラフな格好でした。手首にじゃらじゃらとアクセサリを巻いてらっしゃって、いかにも「音楽しています」という雰囲気でした。Tシャツには白いペンキをこぼしたようなプリントが入っていて、よく見ると「バニラアイスを食べる忍者」のイラストになっていました。
傍から見れば、三人ともバラバラな格好をしていました。共通点なんて何一つなさそう。いつも一緒にいる友達同士だと、自然と服装や喋り方が似通ってくるじゃないですか。好きなファッション誌とか、よく見るテレビ番組の話題とか、だんだんと均質になっていきます。大学の友達と会うと、いつも同じ話ばかりです。
滅多に会わないメンバーで集まると、そういう部分がちぐはぐになります。でも、カラオケに行けば一瞬で高校時代に戻りました。予約したのはディナーだったので、昼間はひさしぶりに三人で遊びました。
ほら、高校生のころも、カラオケにいくと予約曲があっという間に満杯になりましたよね。好きな曲を競うように予約しまくるから。歌う順番を気にしているのは私だけで、みなさんのリモコンの奪いあいが懐かしいです。持ち歌がかぶっているから、誰の予約した曲かなんて気にせず、歌いたい曲を歌う。あの雰囲気、好きでした。マイクが二本だけじゃ、ぜんぜん足りなかったです。ときどき入れ間違いで変なイントロが流れて、「これ入れたの誰だ!」って爆笑するんです。
みお先輩、くったくなく笑ってらっしゃいました。
トルコ料理屋さんは駅から少し離れていました。最初はゆい先輩の案内で向かったんです。靖国通りを四谷に向かって歩いていたんですが、「こっちから近道できそうだよ」という言葉に従ったのが良くありませんでした。脇道に入ったら、すっかり東西南北が判らなくなりました。結局、プリントアウトした地図をゆい先輩から取り上げて、みお先輩にお店を探していただきました。「急がば回れ。横着は良くないぞ」と叱る、みお先輩。昔と同じでした。
目的のお店は大通りに面したビルの一階で、テラス席までお客さんで埋まっていました。広々とした店内は間接照明に照らされていて、各テーブルにはろうそくが灯されていました。壁には中東っぽいタペストリーが飾られていました。私たちが案内されたのは、奥まった場所にある四人掛けの席です。籐を編んだパーティションに囲まれていて、店員さんや他のお客さんの目線が気にならない場所でした。白いテーブルクロスの上には、すでに前菜が準備されていました。
お料理は美味しかったです。ヒツジのお肉とか、オリーブの塩漬けとか、普段はあまり口にしない食材がたくさん使われていました。一緒に出てきた赤ワインも――私、ワインは苦手だったんですけど――軽くて飲みやすかったです。量も多すぎなくて、もう一口くらい食べたいな、ってところで一皿が無くなるように気を配られていました。
だけど本当は、しっかり味わう気分じゃありませんでした。マコトさんのことを聞かなくちゃ、そう思うと気持ちが重かったです。ゆい先輩の顔をちらちら見ながら、いつ話を切り出すんだろう、いつだろう、とやきもきしていました。ゆい先輩が「今はカレシいないよお」と笑うのを、なかば睨みつけていたと思います。
食後はデザートと一緒に、チャイが出されました。濃く煮だされた紅茶です。淡い照明の下では、血のように赤黒く見えました。小ぶりなティーカップには、緑色の緻密な模様が描かれていました。お互いの近況報告も終わっていましたし、お腹もいっぱいで、まったりとした空気でした。
「それでね、みおちゃん」満を持して、ゆい先輩が口を開きました。「最近、カレシさんとケンカとか、してない?」
みお先輩の顔が一瞬だけこわばりました。長いまつげに囲まれた眼が、ちらりと私のほうを向きました。みお先輩はゆい先輩を見つめて、すぐに元の笑顔を作りなおしました。
「あずさから、何か聞いたのか?」
「うーん、聞いたってほどじゃないんだけど」人差し指をあごに近づけて、目線を上に向けます。「なんだか気になるって言ってたよ」
ゆい先輩が演技しているの、判りました。高校生のころは、ゆい先輩はそういうトボケた仕草をしょっちゅうしていました。でも、ハタチを過ぎた人のする表情じゃありません。大学生になって、いろんな人と出会ったからだと思います。久しぶりに会ったゆい先輩は、ただの天然ボケなキャラじゃなくなっていました。
「ああ、先月の電話だな」みお先輩、苦笑を浮かべてみせました。
「悪かった、急に切ってしまって。もしかしてマコトの声も聞こえた?」
うなずきました。あの布袋を叩きつけるような音。いつかの「口内炎が痛い」と顔をしかめるみお先輩。いろいろな記憶が駆け巡りました。
みお先輩はティーカップをソーサーに置くと、腕を組んで身を乗り出しました。ろうそくの明かりが揺らいで、みお先輩のほほに影を落としていました。
「心配かけてすまなかった」みお先輩は、いつものお姉さんの表情を作りました。「あの時、マコトはちょっと疲れていたんだよ」そう言うと、さらに身を乗り出して、右手を伸ばしました。うつむく私の頭を、なでようとしたんです。
「――疲れていて、カノジョのことを殴るんですか」
私、みお先輩の右手を掴みました。手首のあたりを払いのけて、そのままテーブルの脇に降ろしました。手のひらに、みお先輩の鼓動を感じました。細長い手首が、とくんとくんと脈打っていました。みお先輩、虚をつかれたような顔で私を見つめました。
あずにゃん、どういうこと」って、ゆい先輩が言った気がします。でも、みお先輩を見つめ返すことで必死だったんです。ここで目をそらしたら、みお先輩はもう二度と、本当のことを話してくれない。瞳の奥にちらりと見えた本音を、また隠してしまう。カラー・コンタクトを入れるみたいに本当の目の色を隠して、心の扉に鍵をかけてしまう。そう思ったから、私、必死でみお先輩を見つめました。手首をぎゅっと握りしめたまま。
「あのとき聞こえたんです。みお先輩の短い悲鳴と、マコトさんの暴れる音。だから――」言葉を続けられませんでした。――だから、教えてください。みお先輩、いつも殴られているんじゃないですか。コーヒーを選ぶときの何かに怯えたような表情。けれど、訊いてしまうのが怖くて、私、言葉が続かなかったんです。
みお先輩は短く息を吐いて、笑ってみせました。
「あずさ、考えすぎだよ。そりゃ誰だって機嫌の悪いときはあるさ。でもマコトが優しいやつだってこと、あずさも知っているだろ」
「知りません! マコトさんのことなんて私、これっぽっちも知らないです!」
たぶんあの時の私、悲鳴に近い声だったと思います。みお先輩、困惑したように眉をよせて、でも口元は笑ってらっしゃいました。その表情には、何を訊いても答えは変わらないぞ、と書いてありました。どんな訊き方をしても「マコトさんは優しい」「マコトさんはイイ人」という以上の答えは返ってこない。そういう顔をしてらっしゃいました。みお先輩は、私よりもお姉さんだったんです。
あずにゃん、みおちゃんがそう言うんだから、心配無いよ」ゆい先輩はいつもの柔らかい声でした。デザートをスプーンですくって、私に差し出すんです。「ほら、これ美味しいよ。早くしないと融けちゃうよ」とおっしゃいました。私はのどが詰まって、胸のあたりが熱くなりました。だって、ゆい先輩はオトナの目をしていたから。厄介事は見て見ぬふりをする、ずるいオトナの顔だったから。
みお先輩に目を向けると、胸をなでおろしたような顔でした。
「――手、離してくれ。痛いよ」
私は立ちあがり、みお先輩の右腕を両手で掴みました。みお先輩はとっさのことに目を丸くして、自由なほうの左手を伸ばしました。太ももがテーブルにぶつかって、私のティーカップが倒れました。ティースプーンの飛ぶのが見えました。それが床に落ちるよりも先に、私はみお先輩のブラウスの袖口を捕まえて、一気にめくり上げたんです。
カシャン、というティースプーンの音が響きました。
店内のざわめきが遠ざかったように感じました。
ゆい先輩が小さく息を飲みました。みお先輩は表情を失い、自分の腕を見つめていました。まるで幽霊でも見つけたみたいに、くちびるを震わせて。
「やっぱり……」それ以上、何も言えませんでした。
みお先輩の腕は、濃紺に変色したあざで覆われていたんです。
腕の内側には煙草を押しつけられた丸い跡が並んでいて、赤くただれていました。
白いテーブルクロスには、赤黒い紅茶がじわじわと染みていました。
六月ごろから、ずっと気がかりでした。アナスイのワンピース、ロペのジャケット、そしてヴィヴィアンのブラウス。みお先輩は長袖ばかり着ていました。足元だってレギンスやロングブーツで、肌の露出を避けていました。五月から真夏日を記録する、猛暑の年だったのに。
みお先輩の声、かすれていました。「違うんだ。これは私が悪いんだ」って。
それから、ぽつ、ぽつとお話してくださいました。マコトさんが、誠実で優しかったこと。どんな困ったことも解決してくれる、みお先輩のヒーローだったこと。自分がどんなにマコトさんを愛しているか、そしてマコトさんが、どんな言葉で自分を愛でてくれたのか。
「初めてぶたれたのは、四月だった」みお先輩は朝ごはんを準備して、マコトさんが起きるのを待っていました。ベッドから出てきたマコトさんはいかにも不機嫌そうで、これは下手なことを言うとまずいだろうな、とは感じたそうです。
「私がトーストを皿に盛ろうとしたら、後ろから肩を掴まれたんだ」そしてマコトさんは思いっきり、みお先輩を平手打ちしました。コーヒーが冷めていたことを理由に一発、そしてトーストを床に落としたことで、もう一発。「口で言っても解らねえだろ」と吐き捨てたそうです。
「涙? 出なかったよ、そんなの。突然のことに驚いて、床にへたりこんでしまったけれど、マコトのことを怖くも感じなかった。ただ『痛いのは嫌だ』と思っていた」
みお先輩のお話に、私たちはすっかり食欲を失いました。
デザートのアイスはどんどん融けてしまい、こぼれたチャイの香りがあたりを包んでいました。ゆい先輩は耳を塞ぎたそうに、肩をすぼめていらっしゃいました。
それからマコトさんは、たびたび手を上げるようになりました。何かにつけ理由を見つけて、みお先輩を執拗に責めたそうです。夜の帰りが遅いとか、化粧が濃いだとか、言いがかりをつけては殴ったそうです。
「だけどね、マコトが私のことを大切に想ってくれているって、私は解っているから。暴力だって、振るいたくて振るっているわけじゃないんだ。ただ、私が失敗して、マコトを怒らせてしまうから――。だから私が悪いんだ」
みお先輩は、そうおっしゃいました。暴力的な衝動が一通り収まると、マコトさんは手のひらを返したように優しくなるそうです。みお先輩のことを抱き寄せて、甘い言葉をつぶやくそうです。「バカとか、クズとか怒鳴ってごめん」痛みに顔を歪めるみお先輩を愛撫して、あまつさえ自分で付けた傷の手当てまでするそうです。
「みお先輩、別れたほうがいいと思います」
ろうそくの光のなかで、みお先輩の顔が揺れました。不可解な手品を見せられたみたいに目を丸くして、「なんで?」とおっしゃいました。地球は丸いと教わった江戸時代の人みたいな顔でした。まさか、そんな常識はずれなことがあるわけないだろう――って、笑いをこらえてるようにすら見えました。
私は続けました。
「だって、マコトさんのそれは、まるで病気です。みお先輩をいじめるのが止められないなんて、ぜんぜん良くないです。それにお話を聞くかぎり、どんどんエスカレートしてるじゃないですか。過激で残虐になってます。このままじゃ、みお先輩はいつかマコトさんに殺されちゃいます。すぐに別れるべきです」
そしたらみお先輩、ふっと口元を緩めました。
「あずさ、解ってないなあ。大丈夫だよ、もし私が死んだとして、いちばん悲しむのはマコトなんだから。どんなに強くぶたれても、殺されると思ったことなんて一度もないよ。それにマコトだって、本気で殴っているわけじゃないし」
本気じゃなくて、どうしてそんな色濃いあざが残るんですか。大切に想っている相手に、どうして煙草でヤキ入れができるんですか。みお先輩が不機嫌になっていくのが解りましたけど、私は引き下がれませんでした。ゆい先輩は「あずにゃん、それぐらいにしておきなよ」と気を遣うばかりで、みお先輩のこともマコトさんのことも、なにも意見しませんでした。お二人の煮え切らない態度にいらいらして、私つい口走ってしまったんです。
「いまのみお先輩は惨めです! ちっとも幸せそうにみえないです!」って。
みお先輩の表情が変わりました。「なんでそんなこと言われなくちゃいけないんだ」って、低い声でうなりました。
「何が解るんだ。何も知らないクセに。マコトは、私がいないとダメになるんだ。あいつが手を振り上げるのは、今まで、優しさに触れたことがないからで、寂しくてしかたないからなんだ。いま私がマコトと別れてしまったら、誰があいつの寂しさを受け止めてやれるんだよ。誰があいつを助けられるんだよ。マコトには私が必要なんだ。――だから、あずさにそんなことを言われる筋合いはない。だいたいあずさは、ろくに男と喋ったこともないだろ。カレシもいたことないくせに。――ゆいだってそうだ。今まで、誰かを本当に大切にしたいと思ったことがあるか。この人のためなら死ねる、っていうくらい強く、誰かを好きになったことがあるか。ないだろ。ちやほやされたいだけで、相手に何かを与えたいとか、考えたことないだろ。二人とも本気で人を好きになったことなんてないじゃないか! ろくな恋愛もしていないくせに、他人の付き合い方に口を出すな!」
一息に叫んでしまってから、みお先輩は両手で自分の口元を押さえました。小さな子供がイヤイヤをするみたいに、弱々しく首を横に振りました。まるで自分ではない透明人間が勝手に自分の口を動かしたのだとでも言いたげでした。
「……帰る」
お金をテーブルに置くと、みお先輩は立ち上がりました。そのままテーブルから離れて、籐のパーティションのそばで足を止めました。「ごめん、言いすぎた。誘ってくれてありがとう」背中を向けたままそう言うと、足早に立ち去りました。
テーブルの上のろうそくは短くなって、今にも燃え尽きそうでした」



【つづく】
最終回→ http://d.hatena.ne.jp/Rootport/20100329/1269833060
※全5回




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※参考




けいおん!!公式ホームページ

http://www.tbs.co.jp/anime/k-on/





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