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光文社新書のライトノベル的な読み方/【書評】日本経済復活 一番かんたんな方法

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最近のはてな界隈で話題の一冊。流行に乗り遅れまいと読んでみた。


日本経済復活 いちばん簡単な方法

日本経済復活 一番かんたんな方法 (光文社新書 443)

日本経済復活 一番かんたんな方法 (光文社新書 443)


みなさん大好き勝間和代さん、ジャーナリストの宮崎哲弥さん、そして経済学者の飯田泰之さんが三人集まって、日本の景気を回復させるための経済政策について語り合うという本だ。「鼎談(ていだん)」という形式を取っている。



で、気づいた。この本はオトナ向けの『生徒会の一存』だ!



生徒会の一存



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先に『日本経済復活 一番かんたんな方法』の解説をしておこう。
他の人の書評を見ると、経済論や政策論の「入門書」というような位置づけらしい。といっても、一般教養レベルの経済学の知識が必須。大学のぱんきょーでそういう授業を取っていなかった理系な方には少しばかり敷居が高いかもしれない。とくに「言葉の定義」だとか「論理の厳密さ」が気になる人には読みづらいだろうな。なぜならこの本は、ダベり系のライトノベルだからだ。理系の人によくみられる「知識を得るぞ!」という前のめりな姿勢では、この本は楽しめない。何というか、もっとユルい雰囲気なのだ。はてなーがカフェでおしゃべりしているのを文字に起こしたような感じ。もっと肩の力を抜いて読むべき。つまり、勝間さん、宮崎さん、飯田さんという知識豊富な人たちが集まってお喋りする、そのキャッキャうふふダラダラとした空気感を楽しむべき本なのだ!(褒めている)



で、『生徒会の一存』というライトノベルがどんな本かといえば、ある高校の生徒会を舞台に、美少女たちのダラダラした日常会話をひたすら書きつづるという内容。ほとんどの場合、生徒会室のなかだけでお話は完結するし、事件らしい事件もほとんど起きない。ひたすら主人公(♂)が、女の子たちに翻弄されるだけ。『らき☆すた』や『けいおん!』のような「日常系コンテンツ」のなかでも、とくに物語的要素を排斥して「空気感」に特化した作品だ。





どうして『日本経済復活 一番かんたんな方法』はライトノベルっぽいのだろう。
理由は二つある。



(1)無駄のたくさんある構成
たとえば学術論文や教科書系の本ならば、無駄をそぎ落とし、立論することだけに力を注いだ構成を持っている。けれど『日本経済復活』は違う。人間の会話に基づいている以上、同じ論点をなんども行ったり来たりするし、着地点の見えづらい議論も飛び出す。この無駄の多い構成が、いかにもダベり系ライトノベルっぽい。だがそれがいい



(2)誰も対立しない
勝間さん、宮崎さん、飯田さんの三人は、ほとんど同じ認識のうえに会話している。日本の現状を、良く似た切り口から俯瞰している。したがって意見が対立することはないし、すげー仲良さそうに見える。仮想論敵が登場しないため、「日銀がお札を刷るべきだ」という主張に対して、反論が寄せられることはない。淡々と議論が進んでいってしまう。
一応、香山さんの話題が出てくる。ご存じのとおり、勝間さんのケンカ相手だ。が、その場にいない人を欠席裁判で愚痴っているような雰囲気がぬぐい切れない。そのあたりも「高校生が放課後の教室でダベっている感じ」によく似ている(褒めている)





この本をライトノベルと捉えた場合、他にどのような構成を取りうるだろう。ちょっとだけ別の可能性を考えてみた。




A.誰かが仮想敵になる。


誰かがあえて正反対の意見をいうことで、ディベート形式にしてしまう方法。「インフレ政策を取るべき」という主張に対して一貫した反論を行い、それに対して再反論することで、主張の正当性を強調するという構成だ。こうすることで、きっと超能力バトル物のお話として楽しむことができるだろう。ていうか、勝間和代さんってラノベのヒロインそのものだ。まずチート気味な人物設定だし、誰にも真似できないほどの努力家。で、その努力にともなう実力派でもある。そしてなによりツンデレ←ここ重要。
このキャラクター設定だけなら、どこぞのレベル5電撃姫と同じだ。ビリビリ。




B.ボケ担当を登場させる。


こちらはバトル物にするのではなく、逆に「ダベり系」で突っ走る方法。知識の足りないボケ担当が議論を台無しにして、それに三人がツッコミを入れまくるという構成だ。もちろんボケ担当のキャラクターは、読者代表でもある。知識のない読者に対し、Q&Aとして機能するように書くのだ。
たとえば『生徒会の一存』ならば、生徒会長・桜野くりむがボケ倒すことで、お話をドライヴしている。ストーリーをよりメリハリのあるものにするには、ボケ担当を出すのが有効だ。



というわけで、登場する三人のうち誰か一人でもお気に入りの人物がいるのなら読んで損はない本。誰かがフルボッコになるわけでもないし、安心して読める。オススメ。




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「すぎさきー、デフレって悪いことじゃないのよっ! なんでも安く買うことができれば、貧乏な人が助かるのっ!!」
「目を覚ましてください会長! その低価格を支えているのは、削減された人件費なんですっ! われわれ北海道民にとって無視できない問題ですよ! ちづるさんも何か言ってやってください」
「あら? きーくん、私はデフレでも一向に構わないのよ? だって私はデイトレードで稼いでるノンワーキング・リッチだから」
「黒い! さすが黒い!」

ちなみに消費税が上がっていちばん困るのは、母子家庭である椎名深夏・真冬の姉妹。たぶん。



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あわせて読みたい


生徒会の一存 アニメ公式サイト
http://newtype.kadocomic.jp/seitokai/index.html


まずは日銀よりはじめよ –書評-日本経済復活 一番かんたんな方法 -404 Blog Not Found
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宮崎哲弥氏と勝間和代氏にケチをつけますが –EU労働法制作雑記帳
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生徒会の一存」と「ささめきこと」は、とても似ているという話 -karimikarimi
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『日本経済復活―一番簡単な方法』反響へのリプライ-こら!たまには研究しろ!!
http://d.hatena.ne.jp/Yasuyuki-Iida/20100228
※著者ご本人のブログ。うわぁどうしよう俺ラノベとか言っちゃったよ! ファンです。ほかの著作も拝読してます。





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