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「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

レベル5じゃ足りない(1)/『超電磁砲』二次創作

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『レベル5じゃ足りない』
Rootport著



※アニメ第1期1クール目の「幻想御手(レベルアッパー)」編の直後に書いた二次創作です。アニメ放送途中に、その数年後をイメージして書きました。そのため原作の設定とは乖離が大きくなってしまいましたorz パラレルワールド的なものとして読んでいただければ幸いです。



     【1】


 冬の午後、いつもの休日。歩道を木枯らしが吹きぬける。
 御坂美琴は茫然と立ちつくし、携帯電話を凝視していた。
『あー、学園都市のみなさぁん、こんちわッス――』
 画面には動画共有サイトの生放送が映っている。男の声は「若い」というよりも、まだ「幼い」というべきだろう。十代前半の、それでもオスとしての暴力性と邪悪さに満ちた声。薄暗い画面から、美琴は目をそらすことができない。
『えっとぉ、元気のいい女の子を捕まえちゃったんでー、返してもらいたかったら、ボクたちのお願いを聞いてもらいたいんですよぉ。ワガママに付き合ってもらわないとぉ、ボクたち何するか判ンないッスよ? この女の子に』
 画面に男の姿は映っていない。薄暗い部屋だ。背景に黒い布をたらしてあり、壁の色はわからない。暗すぎて床の色も判別不能だ。けれど画面の中央だけは、強烈なスポットライトで照らされていた。古ぼけた安楽椅子の上に、美琴の後輩――白井黒子がいる。
『見ての通り、かなりの美少女なんでー、この動画をご視聴のみなさまも、いろいろと妄想を膨らませていらっしゃるんじゃねえかなー、なんて思っていて。……さあてみなさん、この子のブラの色とパンツの色、どっちが知りたい?』
 黒子の顔は、屈辱で凍りついている。口をガムテープで塞がれ、後ろ手に縛られている。プリーツスカートの裾から、彼女の生白い太ももがのぞいている。左右の足くびは安楽椅子の脚に結ばれて、股を閉じることができない。
《――ブラ》
《パンツ》
《パンツきぼん》
《ブラだろjk》
《PANTSU》
《br》
 生放送の動画に、次々とコメントが寄せられていく。
「なんなのよ、こいつら」
 血の気の引いていく感触。あまりの怒りに気が遠くなりそうだ。
『えーっと、だいぶ再生数が伸びてきたんで、そろそろボクらの要求をお伝えしますねー。ちゃんと見てますよね、警備員(アンチスキル)の偉い人たち。あと、風紀委員(ジャッジメント)のみなさまぁ』
 画面の向こうで、男は笑った。つられるように、数人の男たちが笑い声をあげる。
『別に難しいことは言わねえんで、安心してください。つい先週、ボクらの先輩が捕まっちゃったんですよぉ。確かにカツアゲは良いことじゃないッスけど、大した額でもねえのに、一発で逮捕ってのはひでえんじゃねーの。だから、返せ。あの人を解放しやがれ』
 男の背中が画面に映る。安楽椅子へと近づいていく。黒子が睨み上げている。(この程度では動じませんの)という彼女の声が、聞こえた気がした。
 男は何のためらいもなく、その頬を殴った。
 携帯電話を手に、美琴は小さな悲鳴を漏らす。男は殴るのをやめない。一発、二発、三発――。彼の背中に遮られて、後輩の表情はわからない。男が腕を振り下ろすたびに、黒子の華奢な体が痙攣する。
 ――――どうして?
 センスの悪いブラックジョークを聞いているような気分だ。美琴の脳を、疑問符が満たしていく。学園都市は科学の街だ。能力を開発するため、学生たちは日夜、研鑽を積んでいる。超能力者の体質があると診断され、選ばれた子供たちが集められている。エリート集団のはずだ。なのに、なぜ、男たちはこんな悪趣味な生放送を流しているのだろう。そしてなぜ、白井黒子は逃げないのだろう。彼女は、瞬間移動の能力を持っているはずなのに――。
『今から二時間以内に、お返事をいただけますかねえ。学園都市の総合ホームページってあるじゃないッスかぁ。そこのトップページに、いつ、どこで、どうやって先輩を解放するのか、書いてくださいねー』
 男の手が、黒子のスカートに伸びる。ウエストを荒っぽく掴み、思い切りひきはがした。布の破ける音がして、金具が飛んだ。
『お返事をいただけないときは、この子にもうひと肌、脱いでもらうことになるんでぇ、急いでくださぁい。っつーか、この番組をご覧のみなさんは、むしろそっちのほうがいいのかな? ……早くお返事もらえないと、ボクたち若いし、我慢できなくなっちゃうかも。ストリップどころか、もっとスゴイところを放送しちゃうかもー』
 男たちは爆笑する。直後、画面が真っ暗になった。《利用者のアカウントが停止されたため、この動画はご視聴いただけません》無機質なメッセージが表示される。ホッとする半面、黒子の様子を確認することができなくなった。美琴は舌打ちを漏らす。
 携帯電話をかばんに突っ込み、走り出した。
 行き先は決まっていた。


     【2】


 十五歳の背中が遠ざかっていく。細く、まだ「男」と呼ぶにはあまりにも頼りない後ろ姿だ。月詠小萌は祈るような気持ちで、名も知らぬ少年を見送った。昇降口にはほかに人影はなく、幼い子供たちの遊ぶ声だけが、廊下の奥から聞こえてくる。ここは学校ではない。公民館や児童館と呼ばれる施設に近いけれど、それも違う。ここは、家出した少年少女を受け入れるシェルターだ。
 先程まで、小萌は十五歳の少年のカウンセリングをしていた。能力が伸びないことに思い悩み、彼は学生寮を飛び出した。そして、この施設で一夜を明かした。胸中のわだかまりを小萌に打ち明けて、少しは気持ちが晴れたのだろう。「学校に戻る」と言った。小萌の本音をいえば、彼が学生寮に着くまで見送りたい。けれど、過度の心配症は信頼を失うだけだ。それを判っているから、小萌はただ、彼を信じることにした。名前さえも訊かずに。
 小萌はきびすを返し、昇降口を後にする。
 廊下に出る。今日は一人、ボランティアの女の子が来ている。彼女の様子を見に行こう。ボランティア実習生――佐天涙子はいま、やさぐれた小学生の相手をしているはずだ。
 少年犯罪の低年齢化が止まらない。
 アンチスキルとジャッジメントの奮闘により、犯罪の発生件数そのものは減少傾向にある。が、強盗・殺人・レイプなどの凶悪犯罪はなくならないし、驚くほど幼い犯人が検挙されるようになった。以前、このシェルターに、登山用の大型ナイフを隠し持った小学生が転がり込んだ。その子が「ケンカに使うんだ」と言うのを聞いて、小萌は本気でこの国の将来が心配になった。
 すべては学園都市の仕組みに問題がある。
 特異な体質を持っているからといって、超能力が開花するとは限らない。いわゆる「落ちこぼれ」がどうしても生じる。ただでさえ多感な年頃の子供たちだ。才能不足のレッテルを貼られるのは、耐えがたい苦痛だろう。
 子供たちは夢に目を輝かせて、この街にやってくる。彼らの地元には希望がない。少子高齢化は深刻で、地方都市の荒廃はとどまるところを知らない。所得格差は完全に固定化した。この国の農地の大部分は、アマゾンアグリ社のような外資系企業に買い占められている。田舎の人間はそういった農場で日雇い労働者をしながら一生を終える。決まりきった運命から逃れる唯一の方法は、超能力者の体質があると診断され、学園都市へ来ることだ。
 絶望。
 才能が芽生えなかったことを形容するのに、これ以上適切な言葉があるだろうか。夢に満ちた将来像は、その瞬間に夢でしかなくなる。「人」の「夢」はいつだって「儚い」ものだ。絶望だけが残される。
 そして子供たちは学校を飛び出す。不良になり、徒党を組む。
 子供たちに対する学園都市の冷遇を思うと、小萌は怒りを抑えられなくなる。学生は親の庇護下にあって当たり前――、政治家たちはいまだにそんな神話を信じている。だからセーフティネット的な制度は、ほとんど準備されてこなかった。普通の学校生活からドロップアウトするだけで、子供たちは生活の手段を失う。奨学金などは受け取れなくなり、寝食にも窮するようになる。そしてスリ、万引き、最後には強盗や薬物の密売、売春などに手を染める。
 ステップ1・落ちこぼれになる。
 ステップ2・行き場を失い、不良になる。
 ステップ3・罪を犯す。
 この流れを止めるためにシェルターが設置された。教師たちの呼びかけと署名活動のたまものだ。小萌は発起人の一人だった。無償で寝泊まりできる場所が必要だと、かねてより考えていた。もちろん反発もあった。オチコボレが集まる場所を、快く思わない人も多い。近隣住民から理解を得るのには骨を折った。シェルターの運営は軌道に乗ったばかりだ。小萌は教師として高校で教えるかたわら、休日には必ずこちらに顔を出している。
 小萌は廊下を進んでいく。すれ違う子供たちの年齢層は様々だ。下は小学生から、上は大学生まで。小萌は全員の顔と名前を覚えている。
「加藤ちゃん、元気?」
「あらあら、鈴木ちゃん。おひさしぶり」
「バスケちゃん、また来てくれて先生はうれしいですぅ」
 もちろんすべての子供が、名前を明かしてくれるわけではない。ここは気楽な吹き溜まりで、子供たちを管理するための場所ではない。バスケちゃんの本名を、小萌は知らない。中学生ぐらいに見えるけれど、正確な学年も判らない。バスケットボールをいつも抱えているから、そういうあだ名で呼んでいる。
 佐天涙子も、下手をすれば、このシェルターの「利用者」になっていた。
 廊下を歩きながら、小萌はボランティア実習生のことを思い出す。まっすぐな瞳をした少女。レベル0の無能力者。長い黒髪と天真爛漫な笑顔がよく似合う。佐天涙子が中学一年生のころ、小萌は彼女の補習を受け持った。涙子とはそれ以来の付き合いだ。このシェルターのことも、立ち上げ運動を始めたころから教えていた。涙子のほうから「働きたい」と言ってきた。
(――他人事だとは、思えないんです)あの時、涙子はそう言った。(あたしの幼馴染も一人、この学園都市で行方をくらませています。たぶん、家出だと思うんですけど……)
 スカイプを介して、彼女の真剣さが伝わってきた。
(オルヤ君っていう男の子で――あ、日本人ですよ。変わった名前ですけど――、地元のお刺身工場で一家そろって働いていました。体質が判明したのはオルヤ君のほうが先で、あたしよりも一足早く地元を離れていました)
 彼とは小学校の同じクラスだったという。
(目立つタイプの子ではありませんでした。オルヤ君は地道な努力を惜しまない人だったから、学校の成績は良かったです。コンピューターの扱いも得意で、情報科の授業のときにはみんなから頼りにされていました。ただ、なんというか、要領の悪いところがあって、すごく頑張っているのに、誰にも褒めてもらえない……、そんな場面を何度も目にしました。――あ、それから、オルヤ君が地元を離れる直前、あたしは彼と二人で飼育係をしていたんですよ)
 しかし当時の涙子はウサギを触ることができなかった、らしい。
(だって、指を齧られたら痛そうじゃないですか。ウサギの前歯って、まるで彫刻刀みたいに尖っているでしょう。だから怖くて、触れなかったんです。……だけどオルヤ君は、ウサギを抱きかかえて言ったんです。「触ってみなよ」「柔らかくて気持ちいいよ」「怖くないよ」って。彼のおかげで、あたしはウサギを撫でることができました)
 小萌はあの時、思わず(佐天ちゃんの初恋のお相手かな?)と訊いた。
(やめてくださいよ、小萌先生)涙子は笑い声をあげた。(そんなんじゃありませんって。ただ、確かにオルヤ君は他の男子とは違いました。特別ってわけじゃないけれど、他の子みたいに乱暴なことはしないし、あたしが女だからって、変に気を使ったりもしないし――とても爽やかな人でした。運動は……小学生のころはあまり得意ではなかったみたいです。だけど学園都市に来て、ひさしぶりに再会した時には、ずいぶんとたくましくなっていました。筋肉を鍛えていたそうです。能力が芽生えないなら、せめて体だけでも……そんな風に自嘲して、あたしに力こぶを見せてくれました。あの力こぶの硬い感触、今でも覚えています)
 けれどオルヤは姿を消した。いつまでも力を伸ばすことのできない自分に絶望して、学校を捨てた。夜の街の、どこかへと吸い込まれていった。
(だから、あたしに手伝わせてください。能力の無いつらさとか、何もかも捨てて逃げ出したい気持ちとか、あたしには分かるから。どうしてオルヤ君が学生寮を飛び出したのか、痛いほど理解できるから)
 涙子のこの言葉を聞いて、小萌は嬉しいような、半ば誇らしいような気持ちになった。また一人、教え子がまっすぐに育ってくれた。つまずきの無い人生なんてありえない。重要なのは、ひねくれずに立ち直ること。「七転び八起き」と「七転八倒」とは、似ているようでまったく違う。
 廊下の突き当たりは図書室だ。蔵書の量は少ないが、挫折しそうなときに読んでほしい本ばかりを集めてある。その部屋で、涙子が読み聞かせをしているはずだった。
 図書室のドアに近づき、小萌は思わず眉をひそめる。
 板の向こうから、涙子の声が聞こえる。けれど絵本を読む声ではない。携帯電話で誰かと喋っている。あの子がボランティアを投げ出すとは思えない。低く抑えた声色が、事態の異常さを物語っている。
 小萌はドアを開けた。
「――はい、はい。……わかりました、初春によろしくお伝えください――。あたしも、すぐに動きます。動けるように先生にお願いしてみます。…………きっと、大丈夫です。きっと……だから落ち着いてください、御坂さん!」
 涙子は窓ぎわに立ち、こちらに背を向けていた。何冊かの絵本が床に散らばり、子供たちは勝手に読み進めている。
「……はい、お願いします。ええ、ええ――分かっています。それでは、また」
 電話を切って、涙子は振り返った。
「佐天ちゃん、どうしたんですかぁ?」
「すみません、仕事中なのに電話なんか……」
「いえいえ、佐天ちゃんは非常識なことをしないって、先生はよぉく判っています。だから、その佐天ちゃんが仕事をほっぽり出すということは、よほどのことなんじゃありませんか?」
 小萌の前で、少女がうつむく。黒髪がさらさらと流れる。
「あの……小萌先生。ちょっと見ていただきたいサイトがあるんです。ええっと、でも、子供たちの目には絶対に触れない場所でお願いします」
 涙子はサイト名を告げる。小萌は首をかしげた。
「サイトを見る……だけ、ですか?」
「すみません、あの、もうちょっとはっきりとお伝えするべきでした。じつはいま、あたしの友達がかなりヤバい状況なんです。――どういう状況なのかは、サイトを見ていただければ分かります――。だから、すみません、今日は早退させてください」
 涙子が顔を上げる。真剣なまなざしに、小萌は少したじろぐ。
「あたし、友達を助けなくちゃいけないんです!」
 返事を待たずに、涙子は駆け出した。小萌の脇を通り抜け、図書室のドアへ向かう。床の上のかばんを掴むと、あっという間に廊下へと飛び出した。
「――え? ちょ、ちょっと、佐天ちゃん!?」
 彼女の背中はぐんぐん小さくなり、昇降口に消えた。


     【3】


 薄暗い階段を駆け上がり、御坂美琴はドアを開けた。ジャッジメント・第177支部。治安維持の拠点のひとつで、白井黒子の所属していた部署だ。女子が多く所属しているからだろう、部屋の整理整頓が行き届き、狭さを感じない。オフィスサプライは明るい色合いのものばかりが集められ、いわゆる「探偵事務所」みたいな陰鬱な雰囲気はない。
 美琴が飛び込んだとき、部屋には二人の人間がいた。
「あら、ミサカさん。おひさしぶり」相手は眼鏡を押し上げる「可愛いわね、その携帯ストラップ。新しく買ったの?」
 携帯電話はかばんの中に入れたままだ。固法美偉(このり・みい)はレベル3の透視能力者で、光に頼らずモノを見ることができる。髪はセミロング、つり目がちの美人だ。
「あ……いえ、これはゲコ太のイベントで配っていた――もので……あ、あたしとしてはこんな子供っぽいストラップは恥ずかしいんですけど、でも、せっかくもらったものだから――」
 頬の火照る感触。こんな話をしに来たのではない。
「そんなことより、固法センパイはまだご存じじゃないんですか!?」
 部屋の奥にはコンピューターのモニターが並んでいる。ちらつく画面に囲まれて、ショートカットの少女が座っていた。美琴の大声に驚いたのか、彼女はちらりと目を向ける。初春飾利(ういはる・かざり)は、いつも花の髪飾りをしている。まるで花瓶を頭に載せているみたいに、色とりどりの花びらが彼女の頭を彩っている。
 無言のまま、初春はディスプレイに視線を戻した。いつもなら、甘ったるい声であいさつをしてくるはずだ。しかし今日は黙ったまま、ひたすらキーボードを叩いている。違和感を覚えつつ、美琴は言葉を続ける。
「じつは、黒子が――」
 動画共有サイトの生放送のことを話す。固法センパイの顔が、見る間に険しさを増していく。
「それ、本当なのね?」
「当たり前です! ……嘘だったら、どんなにいいか」
 二人の背後で、カタカタというキーボードの音が止まった。
「――これのことですか」
 初春の声に、固法が立ち上がる。彼女はモニターへと近づいた。美琴もあとに続く。ディスプレイを見やすいように、初春は椅子を引く。
「……どういう……ことなの?」
 画面を覗きこんで、センパイは言葉を失った。美琴も息を飲む。悪い夢を見ているみたいだ。吐き気がする。
 画面の中央には、ウェブブラウザが表示されている。その左側にはツイッター専用のブラウザが表示され、つぶやきが絶えず流れている。そして、ウェブブラウザの上端には《風紀委員(ジャッジメント)人質事件まとめWIKI》と書かれていた。先ほどの生放送を見て、即座に立ちあげられたものらしい。表向きには事件の早期解決をうたっているが、下賤な野次馬根性が見え透いている。
 なにより、先ほどの動画をキャプチャした画像が貼り付けられていた。
「――最低」
 美琴は歯を食いしばる。奥歯が痛い、砕けそうなほど。
 画像は、アカウントが緊急停止される直前のものだった。黒子のスカートが破られ、下着があらわになっている。どぎつい配色の、布の少ない下着。肌に触れる布の面積が増えると瞬間移動の能力を使うときに邪魔だ、黒子はそう言っていた。こんな事態に陥るなんて、考えていなかったはずだ。
「白井さんは、能力を封じられているみたいですね」初春の声はやけに冷静だった。「能力が使えるのなら、すぐにでも逃げ出しているはずです。ほら、ビッグスパイダーの事件のときも、似たようなことがあったじゃないですか」
《ビッグスパイダー》とは、今は壊滅した不良集団の名前だ。彼らはキャパシティーダウンという装置を使って、能力者を狩っていた。見た目だけなら大型の音響設備そっくりの装置だが、能力者の脳に干渉して力を封じ込める。
「でもあの時は、能力のコントロールがうまくいかなくなるだけだった」美琴はあの頭痛を思い出す。「黒子は自分の身体だけじゃなくて、触れたものすべてを瞬間移動させられるのよ。コントロールが効かなくて離れたところまで逃げるのは無理でも、自分の手かせを吹き飛ばすぐらいなら――」
 初春がじろりと睨みつけ、美琴の言葉を遮った。
「だからきっと、それすらも出来ないんです! 御坂さん、あの時のキャパシティーダウンを覚えてますよね。ワンボックスカーに積み込める大きさで、自動車のバッテリーで動いていました。むりやり小型化した、モバイル型の装置なんです。据え置き型のコンピューターよりも、ノートパソコンって性能が劣るじゃないですか。たぶん、キャパシティーダウンも同じです。もし、もっと大掛かりな設備を使うことができたなら。バッテリー容量を気にすることなく、あの装置を使うことができたなら……」
 美琴の背筋を冷たいものが走る。
「能力のコントロールを奪うどころか、完全に封じ込めることができる……?」
「その可能性はあります。現にこうして黒子さんが自由を奪われているわけですから。キャパシティーダウンをバージョンアップさせた、もっと高性能な装置かもしれません」
 美琴の隣で、固法がため息を漏らした。
「あるいは、何か狙いがあって抵抗していないのかも。たとえば『大切な人を傷つけてやるぞ』と脅迫されたら、下手に反抗はできなくなる。男どもを逆上させたくないから、ああやってじっとしているのかも――」
「ありえません!」美琴は叫んだ。「黒子に限って、そんな……そんなこと。犯人の言いなりになるなんて、絶対にあり得ません。固法センパイだって、黒子の性格はよく知っているでしょう!? それに、黒子はレベル4の能力者です。並みの人間じゃ太刀打ちできないほど強くて……それに……それに…………」
「御坂さん、落ち着いてください」場違いなほどゆったりとした口調。「まずは白井さんの居場所を突き止めるのが先です。この動画がどこから配信されたものなのか、調べる必要があります」
 画像のなかの黒子は、ジャッジメントの腕章をしていない。今日、黒子は非番だった。ここにいる三人とも、そのことは知っている。
「今日のご予定を聞いていませんか。お休みの日、白井さんはたいてい御坂さんとご一緒ですよね」
「黒子とは午後からお茶する予定だった。あたし、午前中はちょっと用事があったのよ。こんなことになるなら、ずっとそばにいたのに――」
「あの子、また単独で行動したってこと?」
「大いにありうることですね、あの白井さんなら」
 安全のため、単独での捜査は禁じられている。しかし、そもそもジャッジメントの仕事は公私の区別があいまいになりやすい。たとえ非番の時であっても、目の前で犯罪行為が行われていたら、放ってはおけないだろう。まして正義感の強い黒子のことだ。
「たとえば女の子が不良に絡まれている現場に、白井さんが出くわしたとしたら。……まず間違いなく、白井さんは声をかけるでしょう」
 瞬間移動の能力を使って、ドロップキックの一撃でもお見舞いするかも知れない。
「そして不良たちが慌てふためいて逃げ出したとしたら?」
 美琴はうなずいた。
「不良たちを追うはずよ。女の子の保護なんか後回しにして」
 白井黒子には、ビル一棟を倒壊させた前科がある。その時は、親友の佐天涙子が襲われているのを見て、少し「キレて」しまったのだそうだ。
「でも今回に限っては、不良たちのほうが一枚上手だった、というわけね」固法の顔つきは険しさを増す。「逃げているふりをして、実は自分たちのアジトへと誘い込んでいた。キャパシティーダウンのような装置のある場所に、おびき寄せていた。……だとしたら、相当に計画的な犯行だわ」
「卑劣だわ! 黒子に何の恨みがあって――!」
 パチパチと音がした。怒りのあまり、美琴のおでこから火花が飛んでいた。感情が高ぶると、自分の放電能力を抑えられないことがある。
「御坂さん、気をつけてくださいね。この部屋、電子製品が多いので」
 そんなこと、言われなくても判っている。けれど美琴は、初春のように冷静ではいられないのだ。友人の危機を前にして平気な顔をしていられるなんて、神経を疑う。
「……ごめん」
 無理やり電撃を抑え込む。色々な感情がごちゃ混ぜになって、脳みそが爆発しそうだ。
 初春は固法に目を向けた。
「犯人のグループが計画的なのは、センパイのおっしゃるとおりだと思います。ですが、そうなると一点、ひっかかることがあるんです。あんな生放送をすれば、アカウントがすぐに停止されるに決まっています。そんな判りきったことに気がつか……」
 画面の左端が、急にちらついた。ツイッター専用ブラウザ。つぶやきの流れる速度が、急激に増した。次々に新たなツイートが発されて、過去のものを洗い流していく。
 >生放送再開なう
 >犯行放送ktkr
 >キャプチャ開始した
 >GJ
 初春の顔色が変わる。椅子を机に寄せて、キーボードを叩く。
 いくつかのショートカットキーだけで、目標のサイトにたどり着いた。
『はぁい、学園都市のみなさまお待たせしましたぁ』
 画面には、縛られた黒子が映っている。肩から上のアップだ。両手を頭のうえで交差させ、手首を縛られている。先ほどの放送の後、縛り方を変えたのだろう。黒子はカメラと目を合わせようとしない。白魚のような手首の裏側に、一本、真っ赤なすじ腫れがあった。
『ゼムクリップって、好きな形にのばせるじゃないッスかぁ。んで、ライターで白熱するまであぶると、自由な模様を描けるんですよねぇ、人間の肌のうえに』
 焼き入れだ。黒子は手首に焼きを入れられたのだ。美琴は画面から目をそらしたくなる。
 初春の指先は動き続けていた。目にも止まらぬ速さで、次々にアプリケーションを起動していく。美琴は爪を噛みながら、その様子を眺めている。
『あ、心配しなくても、俺たちは約束を守りますからねぇ。この子にもう一枚脱いでもらうのは、あと……えっと……一時間二十三分後だ。うん、それまでちょっと時間はかかるんですけどぉ、俺たちもね、遊びでやってるわけじゃねえんだ。大人の皆さんにも、少しばかりマナーを守っていただかないと――』
 画面が再び暗転した。《利用者のアカウントが停止されたため、この動画は……》初春が舌打ちを漏らした、周りにも聞こえるほど大きな音で。彼女らしからぬ態度に、美琴は目を剥く。
「う、初春さん?」
「――もう少しで、突き止められたのに!」
 キーボードから手を離すと、お祈りをするみたいに両手の指を組んだ。それをおでこに当てて、机のうえに突っ伏す。
「どういうこと?」
「あとちょっとで、突き止めることができたんです。あの動画がどこから流されているものなのか。ツールを走らせて、サーバーをハッキングしていました。……だけど、上手くいかなかった。時間切れでした。あそこでアカウント停止なんてされなければ」
「ちょっと、変なことを言わないでよ。生放送が続いたほうが良かったっていうの?」
「私だって、黒子さんがいじめられているところなんか見たくありません。だけど、場合によるって言いたいんです。――じつは、動画がどこから放送されているのか、情報は寄せられています。最初の放送で、ハッキングに成功した人がいたみたいです。でも、信憑性はきわめて低いです。情報が寄せられたのは、さっきのまとめWIKIなので」
「どこなの?」
「第七学区の高校……」
「そんな、ありえない」
 初春はうなずく。
「ええ、どんな学校だって、休みの日には限られた場所にしか立ち入ることができません。それにどんなに人目につかない場所だって、先生たちは案外しっかりと見張っているものです。――確かに、休みの日でも、教員や研究者のためにネットワークはオンラインになっています。けれど、良識ある先生たちが、あんなことをするはずありません」
「それじゃ、WIKIに寄せられた情報は?」
「たぶん悪質なイタズラか、何かの間違いだと思います。私はそれを確かめようとしていたんです」
 画面を凝視していた固法が、すっと身体を起こした。
「じっとしてはいられない。私はアンチスキルの手伝いをしに行ってくる。初春は連絡を回してちょうだい。動ける人間は、みんな私に一言、入れるように――」
 初春が無言でうなずく。すでにメッセージを打ち始めていた。ネットでこれだけ話題になっているのだ。ジャッジメントの人間は誰もが固唾を飲んで事態を見守っていることだろう。そして、固法の指揮を待っているはずだ。
「それじゃ、バックアップをよろしく」
 そう言い残して、固法は立ち去った。
 階段を駆け下りる音が響く。
 美琴は初春を見下ろす。あめ玉のような声の持ち主は、両眼を閉じていた。神妙な面持ちで、何か考え事をしているみたいだ。
「ねえ、初春さん。何かできることは無いの。さっきの高校の話だけど、どんなに嘘くさくても実際に行ってみたほうがいいでしょう」
「……生放送について検索すれば、すぐにさっきのまとめサイトへとたどり着くことができます。私たちが動くまでもなく、アンチスキルが――あ、ほら、今メッセージが届きました。アンチスキルが動き始めたそうです。彼らのほうが先に現場に着きます。今すぐにできることは、無いです、悔しいですけど……」
「そんな……それじゃ、ここで、じっとして、次の生放送が始まるのを待つしかないっていうの?」
 初春が椅子を引く。決然とした瞳で、美琴を見上げる。
「そうなれば、まだマシです。犯行現場をアップロードするのは犯人たちにとってもリスクが大きいんです。いつまでも続けられるものではありません。次の生放送があれば、まだ最悪の事態にはなっていないということが――」
「ふざけないで。もう、充分に最悪の事態でしょう!」
 何か言いたげに、初春が口もとを歪めた。美琴も負けじと睨み返す。
(臆病者。待ちぼうけだなんて消極的すぎる。さっさと居場所を突き止めて、殴り込めばいいんだ。あたしが一発ぶちかませば、それで万事解決だ。なのに、この部屋で、じっと座っているだなんて。これだから根暗なコンピューターオタクは――)
 絶対に口には出せない罵声が脳裏を渦巻く。けれど心の片隅には(こんなの自分じゃない)と叫ぶ美琴がいる。(優しくて、みんなから慕われる自分でいなければ)と考えている美琴が、小さく震えている。本当の自分が何者なのか判らなくて、美琴は言葉を失う。
 今にも電撃を放ってしまいそうだ。
 そのとき、再びツイートの流れが加速した。
 画面のちらつきに気づき、二人は揃って目を向ける。
「はじまりました」
 言い切るよりも先に、初春は目的の画面を開いていた。
 アングルは先ほどと同じ。虚ろな目をした白井黒子のアップだ。
『だぁから、マナーは守れっつーの』
 粘つく口調。黒子の手首には、赤い焼き入れの痕。あまりにも痛ましい。
『えーと、もしもし、動画サイトの運営さん? 聞こえてます? あんたたちさぁ、子供のときに教わっただろう。ヒトの話は最後まで聞けって。それを途中でぶった切るってえのは、ひどくマナー違反なんじゃねえの?』
 男はくつくつと笑い声を上げる。その声が、少しカメラに近づいた気がした。
『だから、もう一つルールを作ろう。あんたらがアカウントを停めるたびに、俺たちはこの子に焼き入れを一つ追加する』
 男の声はカメラのすぐ横まで近づいて来た。画面の端に、真っ白な針のようなモノが映る。限界まで過熱されたゼムクリップだ。
『こっちはさ、捨てアカを百個ぐらい準備してあるんだ。もちろん、あんたらのサイトだけじゃなくて、あちらこちらの似たようなページにね。だからどんなにアカウント停止しても焼け石に水だよ』
 光を放つ金属針が、少女の手首に押し当てられた。ジュッという嫌な音がした。黒子は目を固く閉じ、ほっぺたをヒクヒクさせている。彼女の目尻から涙が浮かんでいる。
『俺たちはどうでもいいんだぜ、おたくの会社がどんな非難を受けようが、知ったことじゃない。だけど世間的にはマズいんじゃねえの? 女の子が傷つけられるのを判っていながらアカウント停止した、女の子を見殺しにした会社だ。そんな風に言われるのは、経営判断的にどうなんですかぁ?』
 美琴はくちびるを噛む。この国の人間は足を引っぱりあうのが大好きだ。ニュースサイトはこぞって書き立てるだろう。アカウント停止という常識的な判断が、いかにも非人道的なものだったかのように。事実を歪曲することもいとわずに、駄文を垂れ流しにするだろう。そして大人たちはみんな、世間の風評にびくびくしている。小娘一人の人生よりも、自分の保身を優先する。それが大人だ。
『いやぁ、俺たちはいい時代に生まれたねえ。少し昔じゃ、こんなことはできなかった。携帯電話ひとつで生放送ができるなんて』
 余裕に満ちた口調。語尾に笑いがにじんでいる。黒子は肩で息をしていた。犯人たちが使っているのは、足の着かない違法な携帯電話だろう。彼らはマヌケではない。当然、何台も準備しているはずだ。
『手に余るような情報端末。そして何十台ものサーバー。それが全部、俺たちみてえなガラの悪い連中でも扱えるんだ。本当にいい時代だぜ、あんたらの子供時代よりもずっといい、そうだよな、オトナのみなさんよぉ?』
 くそくらえだ、と男は言った。
『何がいい時代だ、ふざけんじゃねえ』
 怒りを押し殺した、低い声。
『あんたら、落語の「芝浜」って話を知っているか?』
 誰もが知っている伝統的な演目だ。酒ばかり飲んでいる男が、芝浜で大金の入った財布を拾った。大喜びで家に帰り、妻に宴会の準備をさせる。酔いつぶれて目が覚めると、肝心の財布がない。酒を買うために使った借金だけが残っている。全ては夢だったと男は深く反省し、真面目に働くようになる。
『あんたらは、長い長い宴会を楽しんでいたんだよ。うまい酒をたらふく飲んで、将来のことなんかこれっぽっちも考えなかった。酔いつぶれる頃にはすっかり大人になって、自分の地位を固めやがった。残された借金や揉め事は、ぜんぶ俺たち子供の世代になすり付けて』
 落語の「芝浜」では、最後に真相が明かされる。
 男に真面目さを取り戻してもらうため、妻が財布を隠していたのだ。
『現実は、そんな甘くねえ。大金の入った財布なんか、最初からありはしねえ。小学生にだって解るだろうよ。――俺たちにも解るようなことが、どうして、あんたらには解らなかったんだ』
 そうつぶやいたきり、男は押し黙った。
「――ウソ」
 初春が小さく息を飲む。
 キーボードの上で、彼女の指が止まっていた。
「ありえないです。学校から、配信されているなんて……」
 誰にともなくつぶやいて、猛然と指を動かし始めた。
「学校?」
「そうです。今、ハッキングに成功したんですけど……なんだか変な結果になってしまったんです。どこかで間違えたのかも知れません」
「その学校って、さっき言っていた高校?」
「いいえ、別の高校でした。いま、やり直しています」
 目は画面を凝視し、口では美琴に返事をしながら、指先はコマンドを叩き込んでいる。
「あのさ、プロバイダーっていうんだっけ? ネットワークのサービスをしている会社から直接情報を提供してもらうことはできないの?」
「情報提供の申請なら、もうしてあります。ですが、それが通るまでにちょっと手間がかかるんです。とても待っていられません」
 ぴたり、と指の動きが止まる。
「……………………!!」
「今度は、なに!?」
 顔を強張らせながら、初春が画面から顔を上げた。
「やっぱり、学校です。でも、さっきとは結果が変わりました。先ほどの高校から二キロぐらい離れた場所にある、中学校です」
 ほんの数分しか経っていない。生放送を続けながら移動できる距離ではない。まして、白井黒子という怪物を捕まえているのだ。能力を封じるための設備を、常に稼働させておく必要がある。異常な事態が生じていると、美琴にも解る。だけど、何が起きているのかさっぱり理解できない。
「ねえ、初春さん。何とかして、動画の視聴を止めさせることはできないの?」
「こんな結果、納得できません。少しやり方を変えてみます。使ったツールが悪かったのかも知れないです……」
「犯人の脅迫がどこまで通用するのかは解らない。だけど、アカウント停止をしづらくなったのは間違いない。それに黒子が傷だらけになるのは許せないわ。でも、動画を垂れ流しにされるのも我慢できないのよ」
「わたし、セキュリティを構築するのは得意なんですけど、ハッキングする側に回ることは滅多になくて。……勉強が足りないんです、まだまだ」
「たとえば学園都市のなかにある全ての端末から、あのサイトへのアクセスを禁じるのはどう? ここのコンピューターから、そういう操作はできないの? それで、犯人グループの端末にだけは動画を流してやるのよ」
「白井さんの居場所さえわかれば、ジャッジメントとアンチスキルの人間が大挙して救出に向かいます。だから、わたしは白井さんを見つけ出さなくちゃいけません」
「端末単位でサイトへのアクセス制限をかければ、完全に犯人たちの意図をくじけるはずでしょう。誰もあのサイトを見ることはできない、だけど犯人たちだけは、それに気がつかない……ねえ、初春さん。初春さん!」
 彼女は手を止めた。美琴をキッと睨み付けた。
「わたしだって、できる限りのことをしています!」
「それなら今すぐあの動画を止めて! これ以上、黒子をみんなの笑いのタネにしないで!」
「それが出来るなら、とっくにやっています。――御坂さん、こんなことは言いたくないですけど、少し黙っててください。話しかけられると気が散ります。わたしだけじゃなくて、固法センパイも、他のジャッジメントのメンバーも、それにアンチスキルのみなさんも、全力で白井さんを助けるために動いているんです。それぞれの持ち場で戦っているんです。……ネットはわたしの戦場です。解りもしないことに口を挟まないでください!」
 一息にそう言うと、初春は再びディスプレイを睨み付けた。殴るような勢いでキーボードを叩き始める。その様子を、美琴は言葉もなく見つめた。
 返す言葉が見つからなかった。
「……わかったわよ」
 美琴を無視して、花飾りの少女はコンピューターを操作している。
「あたしは、あたしの方法で黒子を助ける。それで文句ないでしょう」
 美琴は返事を待たず、きびすを返した。初春に背を向けて、走り出す。この場所に来たのが間違いだった。知り合いを頼りにしたのがバカだった。昔からずっと、美琴は心に誓っていた。自分は一人しかいない。自分を守れるのは自分だけだ。
(だから、他人を頼ってはダメなんだ)
 今の美琴があるのは、そうやって努力を重ねた結果だ。
 第177支部を飛び出し、階段を降りる。
 あきれるほど広い学園都市が、美琴を待ち構えていた。


     【4】


「――――もしもし、初春です。………………ええ、そうです。メール、読みました。…………ごめんなさい、本当はすぐに連絡をしたかったんですが…………。………………解っています。誰にも言いません。………………はい、その通りです。さっきまで御坂さんがいらっしゃいました。…………固法センパイはアンチスキルのところに…………。…………はい……はい……。…………ああ、それなら、うまく隠せると思います。…………でも………………いいえ、大丈夫です。…………はい。………………はい。……………………ひとつだけ、わたしからお願いしてもいいですか。絶対に約束してください。…………――くれぐれも、お気をつけて」






(後編へ続く)

後編→ http://d.hatena.ne.jp/Rootport/20100222/1266808732






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というわけで二次創作してみた。
※以前の記事を参照のこと。


なぜ『とある科学の超電磁砲』は不気味なのか
http://d.hatena.ne.jp/Rootport/20100210/1265771726


まだアニメしか見てなくて原作はこれから。なので色々と矛盾とかあると思います。コメントにてご指摘いただければ幸いです。少しずつ反映していきます。



ていうか、このミスに向けて準備していたネタを丸々流用してしまったorz




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あわせて読みたい



とある科学の超電磁砲<レールガン> -公式サイト
http://www.project-railgun.net/


「学園都市は養鶏場、御坂御琴は極上ブロイラー」-シロクマの屑籠
http://d.hatena.ne.jp/p_shirokuma/20100209/p1


日本以外全部成長 -すなふきんの雑感日記
http://d.hatena.ne.jp/sunafukin99/20100221/1266751275
←この事実に少し驚愕したほうがいいです


デュラララ!!』と『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』で共鳴する不吉さについて -反=アニメ批評
http://d.hatena.ne.jp/ill_critique/20100221/1266757429
←アニメを斜め上から考察するのは楽しい


四半世紀ぶりにナウシカを見たおっさんの感想 -G.A.W.
http://d.hatena.ne.jp/nakamurabashi/20100220/1266592634
←この人の感想はいつも鋭くて面白い。そうだナウシカきみは頑張りすぎだ。

  • 俺の邪悪なメモ

http://d.hatena.ne.jp/tsumiyama/20100218/p1
勝間和代ウォッチャーと言えばこの人




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