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「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

るーとぽーとおじ

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《るーとぽーとおじ》2007/01/02



 るーとぽーとの伯父さんは、永遠の悪ガキだ。

 暴走族でもない平和主義者のくせして、七半を乗り回している。
 愛車トライアンフの後部座席に、小学一年生の僕を乗っけてくれた。

 多摩川の河川敷で、小学三年生の僕に自動車の運転を教えてくれた。
 釣りを教えてくれたのも、日曜大工の基本を教えてくれたのも、
 この悪ガキな「るーとぽーとおじ」だった。


 さて、このるーとぽーとおじは、日曜大工という趣味がある。
 しかも伊達ではない。きちんと学校で技術を仕込まれている。
 専門は木工だったというから、その腕前はお墨付きだ。

 つい先日も、友人に頼まれて犬小屋を作った。
 分厚い板と角材で、がっしりとした作りの犬小屋だ。
 表面も綺麗に磨き込まれて、ニスが塗られていた。
 ペットショップで買えば、きっと数万円はするだろう。
 るーとぽーとおじにとっても、
 生涯で五本の指に入るような傑作だったらしい。

 いそいそと車に載せて、犬小屋を友人のもとへ届けに行った。



 ここでポイントが三つある。


1.るーとぽーとおじの車は小さいということ。
 三菱のパジェロミニ、五人乗りの四輪駆動車だ。
 後部座席は工具やキャンプ道具で溢れ、とても人の乗る隙間はない。
 犬小屋は助手席に載せられた。


2.友人宅に向かったわけではないということ。
 るーとぽーとおじも、その友人も、長距離トラックの運転手をしている。
 犬小屋の受け渡しには、会社の駐車場が選ばれた。
 その友人は(犬と共に)新潟から帰ってくるところだった。
 そこでまず、会社の駐車場で落ち合うことに決めたらしい。
 ワンちゃんのお気に召すかどうか試すのが目的だ。
 わんこが犬小屋を気に入ったらその後、
 るーとぽーとおじの車で、彼らを彼らの家まで送迎する予定だった。


3.これが一番重要なポイント。
 犬小屋の屋根は、まだボンドで仮止めしているだけだったということ。
 時間が足りなくて、釘で完全に固定することができなかったらしい。
 友人宅に運んでから最後の仕上げをする予定だった。




 勘の鋭い人は、すでにオチが解ったのではないだろうか。


 るーとぽーとおじは、まず会社の駐車場に向かった。
 駐車場では、友人が待っていた。その傍らには、友人の飼い犬が座っていた。
 るーとぽーとおじは得意げに犬小屋を見せる。
 なんたって生涯で五本の指に入る傑作だ。

 わんこ、大興奮。

 すっかり気に入ってしまったのだろう。
 飼い主が呼んでも小屋から出てこなかったという。


 で、そのあと予定通り友人たちをパジェロミニに載せた。
 ここで思い出して欲しいのは、るーとぽーとおじの車がとても小さいということだ。
 助手席には友人が座り、その膝の上にわんこが座った。
 そのため、犬小屋を車内に積めなくなったのだ。
 しかしパジェロミニは四輪駆動車。アウトドア派の自動車だ。
 屋根のうえに荷物を積めるように改造されている。

 なんの迷いもなく、るーとぽーとおじは犬小屋を自動車の屋根に載せた。
 


 そして走ること数十分。
「トイレ行きたい」と友人がつぶやいた。
 しかたなく、通りがかりのコンビニに自動車を入れるるーとぽーとおじ。
 自動車から降りる友人。
 煙草を吸いながら彼を待つるーとぽーとおじ。

 トイレを終えて、友人がコンビニから出てきた時だ。
 友人は眼を見開いて、大声で叫んだ。

「あー! 屋根がないぞー!」

 るーとぽーとおじも、慌ててクルマを飛び出した。
 そして見ると、クルマのうえに載っていたのは天井のない犬小屋。
 仮止めされていた犬小屋の屋根は、跡形もなく吹き飛んでいた。
 もはや、犬“小屋”ではない。ただの“囲い”である。


 ショックで言葉もないるーとぽーとおじに対して、友人は激怒した。

 売り言葉に買い言葉で、るーとぽーとおじも激怒。

「仮止めしかしてねーのに、クルマの上に載せるからだろ!」
「お前らが助手席に座ったからじゃねーか、仕方ないだろ!」
「だって釘を打ってないなんて、思いもしねーじゃんか」
「ばーか」
「あーほ」
「お前の母さんでべそー」

 怒りに震えながら、るーとぽーとおじは叫んだ。


「そこまで言うなら、もうお前らここで降りろ。クルマから降りろ」


 友人も引き下がらない。


「ああ、降りてやるよ! もう二度と乗るもんか!



 そして二人は喧嘩別れした。





 === === ===




 年末、るーとぽーとおじは僕の家に遊びに来た。
 そのときに、この武勇伝を聞かせてもらった。

「で、その後どうしたの?」と僕は訊いた。
「ちゃんと仲なおりできた?」

「ああもちろん」
 いつものようにタバコに火を点けながら、るーとぽーとおじは答える。
「メールが来たんだよ、その友人から」



《親愛なる、るーとぽーとおじ様へ。少し言い過ぎました》

《今では反省しています》



「まあ素直に謝ってきたから、許してやるつもり」


 そう言いながら、るーとぽーとおじはメールの文面を読ませてくれた。
 そのメールは、こう締めくくられていた。



《どうか、あの犬小屋に屋根をつけてください》