デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

Tale or trust

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《Tale or trust》2006/10/17



「あなたの尊敬する人物は誰ですか?」

 ありとあらゆる面接で訊かれる、代表的な質問だ。


 昨日、同じサークルの6人でご飯を食べにいった。
 みんな大学3年生。そろそろ就職活動を始めている。なんとなく話題は面接と自己分析の話へ。そのなかで、上の質問が取り上げられた。


「私の尊敬する人は」るーとぽーとは答える。
「エメット・ブラウン博士です」

 この名前にピンと来た人、手を上げて。

 年齢がバレます。


 この人は映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の登場人物。タイムマシンを作り上げた、あの博士だ。「ドク」の愛称なら、みんな知っていると思う。
 ぶっ飛んだ演技のクリストファー・ロイドが、最高にハマり役だった。


「では、どうしてその人物を尊敬するのですか?」


 それには3つの理由がある。
 
 1つは、諦めないこと。転んでもただでは起きないこと。

 映画ではコミカルな役まわりだったDr.ブラウンだが、じつは彼には暗い過去がある。マンハッタン計画に参加して、原子爆弾の開発に取り組んでいたのだ。公式DVDの特典映像で、こうした彼の背景を知ることができる。

 その後、終戦とともにマンハッタン計画は解体されてしまう。
 つまりDr.ブラウンは、仕事を失ってしまうのだ。

 が、彼は諦めなかった。
 思い出してほしい。初代のタイム・マシンは、プルトニウムを燃料としていた。Dr.ブラウンは、マンハッタン計画での経験を活かしたのだ。
 そして人類の夢、タイム・マシンを発明してしまう。


 一度は悪魔の発明に加担し、そしてすべてを失ったDr.ブラウン。
 けれど、その経験を活かして、すばらしい発明を成し遂げる。

 そのような生き方には、尊敬の念を覚えずにはいられない。



 そして2つ目は、信念があること。

 マンハッタン計画から冷戦へと続く核開発競争は、科学への不信感を招いた。
 この映画の公開されたのは1985年、
「進みすぎた科学は悪だ」
 という雰囲気が最高潮だったころである。

 そんな中で、どうしてDr.ブラウンはタイムマシンを発明できたのだろう。
 きっと彼を突き動かしていたのは、
「科学は人類を救う/科学は本質的に善だ」
 という強い信念だったはずだ。

 その信念がなければ、タイムマシンという究極の発明には至らなかったのではないだろうか。

 彼は劇中で、
「未来を知りすぎるわけにはいかない」
 というセリフを何度も繰り返す。

 このことからもわかるとおり、彼は時に頑ななまでに、自分の信念を貫ける人物なのだ。

 そのような強い人物に、憧れずにいられるだろうか。




 そして3つ目、よき「大人」であること。


 一見するとDr.ブラウンは、子供っぽい人物に思える。何しろ、主人公であり、高校生のマーティ・Mcフライと大親友だ。まともな大人とは思えない。

 が、彼は高校生と一緒に遊べる若い心を持ちながら、決して高校生と同じレベルではない。マーティやその恋人が危険に陥らないか、常に気にしている。マーティが悩んだときには、的確なアドバイスをする。危機に陥れば、必ず助けに向かう。

 たとえばシリーズ2作目で、拳銃を持った悪役にマーティが追い詰められるというシーンがある。身を隠す場所のない屋上、マーティは絶体絶命のピンチだ。
 そんなとき、Dr.ブラウンが駆けつけて、主人公を助ける。

 たとえばシリーズ3作目のラストシーン。マーティの恋人が、Dr.ブラウンに1枚の紙を見せる。未来から持ち帰ったその紙には「You are fired!(お前はクビだ!)」と書かれていたはずだった。が、なぜかその文字が消え、白紙に戻ってしまった。「なぜでしょうか?」と訊く彼女に、ドクはこう答える。

「君たちの未来も、その紙のように真っ白だということさ」

「好きな未来をえがくんだ!」

 高校生たちを勇気付ける、すばらしいセリフだと思う。
 さまざまな苦難を乗り越え、数々の時代を旅したDr.ブラウン。
 その彼が言うから、なおさらこのセリフは胸に響く。


 子供たちに必要以上に干渉せず、必要とされたときには、必ず助けにいく。
 叱ることはあっても、決して怒らない。

 この距離感こそ「よき大人」の絶対条件ではないだろうか。
 だからこそ、マーティはDr.ブラウンに絶対の信頼を置いているのだ。



 挫折しても、むしろそれをプラスに転じられること。
 
 強い信念を持っていること。
 
「よき大人」であること。

 この3つの点から、るーとぽーとはエメット・ブラウン博士を尊敬している。




「では、エメット・ブラウンのような人物になりたいですか?」



 もちろんだ。



「つまり、あのようなぶっ飛んだ人物、
 いわゆる変人になりたいワケですね?」





 いいえ、




 すでに変人ですので。